存在しない完全

ただの雑記ブログ

久しく

f:id:mynorna:20200716201349j:plainどれくらい時間が経っただろうか。

自転車に乗らなくなってから、の時間の話である。

何歳から自転車に乗れるようになったのかは覚えていない。幼い頃の私は何ヵ所も擦り傷をつけながら、補助輪を外して親に支えてもらいながら練習したりしたのだろうか。覚えていない。でも少なくとも高校卒業まではずーっと、ずーっと乗ってきた。
これまでの人生でこいだペダルの回転数は何回転だろう。そんな事を知ることができたらなんだか面白いと思いませんか?

小学校の頃は遊びに行くのはいつも自転車だった。
学校から帰るやいなやランドセルを部屋に放り投げて自転車に飛び乗る。家への滞在時間およそ3秒。はやくみんなと遊びたくて、みんなに会いたくて長い坂道をブレーキなしでかけ降りていた。あの爽快感。怖いものなんて僕らにはなかった。あ、でもみんなが集まるあの場所までの坂道でこけて大泣きしてたやつもいたっけ。
でも、あの頃の僕らは無敵だった。間違いなく。チャリンコがあればどこへでもいけた。どこへでもいけたから、校区外のデパートまで遊びに行って、次の日1時間目から4時間目まで校長室で怒られたことがあったっけ。保護者や学校の関係者が車でたまたま通りかかって見つからないように、裏道を選んで行ったつもりだったんだけど。

中学生になり、登下校は自転車になった。居心地悪そうに、左ハンドルにかけられたヘルメット。一回も被ったことはない。雨の日もかっぱを着て、雪の日は真っ白になった地面に細いラインを引きながら、毎日通った。いいことを教えてあげますね。雪が積もってるのに自転車に乗ることはやめるべきです。特に坂道。忠告しましたからね。絶対やらないように。

田舎に住んでいた私は近くの駅に行くまで自転車でも20分はかかった。しかも2両か1両しかない電車だったから、通勤通学の時間帯は満員必須。まあ9.5割くらいの人間が通学なんだけど。それが嫌で自転車でなんとか通えて、学力もちょうどいいくらいの高校を選んだ。自転車で40分。アップダウン、かなりあり。そんな道をみんなは「通える」とは言わないのかもしれないけど。そりゃあ天気が悪い日なんてもう半泣きになりながら自転車をこいでた。ああ何で私はこんな日に自転車に乗ってるんだ。親にお願いして車で送ってもらえばよかった。そう後悔するのにまた次回の悪天候の日には懲りずに自転車で通う。で、絶望。イライラしながら登校or帰宅。全く学習しない。結局、足を怪我して松葉杖をついていた時期以外、毎日自転車に乗っていた。

なんだかんだ楽しかったんだと思う。好きだったんだろう。そのときはただの移動手段にしか過ぎず、これがないともはや生活できない必需品と考えていたけれど、好きだったんだ。自転車が。

朝外に出て軽く風を切る。照りつけられた地面からの熱気が、風と共に漂う雨の匂いが、肌を刺す冷徹な空気が、季節を教えてくれる。川沿いを鮮やかに染め上げていた木々はいつの間にかそこに本当にピンクなんて色が存在していたのかわからなくくらい緑を繁らせていた。もうそんなに時が経ったんだな。毎日毎日、見慣れた景色をあの頃の私はあえて
そうしようと思ったわけでもなく楽しんでいた。

そして、頭を整理する時間でもあった、と思う。
今日は課題があったかな
昨日の試合はあのプレーがよかった
生徒会の会議って明日だっけ
友達はそう言えばこんなこといってたな
2年生になったら、目標は
夏休みは、あれやって、これやって

1人の時間は自然と自分と対話する時間になっていた。スマホやメディアに支配される現代、ただペダルを漕ぎながら止めどなく溢れる頭の中の言葉に自分の意識を漂わせていた。


あれから。
今は免許を取り、どこへ行くにも車で済ませるようになった。遠くへだって、自転車に比べればはるかに速く行けるようになった。移動手段としては同じなんだけど、いまだにしっくりこない。事故を起こさないようにある程度緊張しておかないといけないし、スピードは出しすぎても遅すぎても良くない。窓を開ければ風は感じることはできるけど、やっぱりなんか違うんだ、と思ってしまう。散歩なら、自分のペースで動くことができるから、車より好きだけど、やっぱり、なんか違う。

もう一回、自転車乗ろうかな。好きな色のやつ見つけて。できれば、ロードバイクとは言わないけれど、クロスバイクくらいの軽くてすいすい進むやつがいい。また自転車に乗れば、もしかしたら、昔のあの頃の気持ちを、思い出せるのかもしれない。今の日常に新たな彩りを加えてくれるかもしれない。そんな思いを馳せながら、ネットショップで自転車を探してみたりする。

何年も乗ってないけれど、きっと乗ればわかるよ。体が覚えているはず。
あれだけ時間を共に過ごしたんだから。